アカマツカサ類の同定

アカマツカサ類の同定

ご無沙汰です。

私は最近アカマツカサ属の同定依頼に遭遇することが多い。大体が紀伊半島から九州・沖縄で採集されたアカマツカサ属の同定であるが、これは常に悩ましいのだ。なぜなら、体の側面だけ撮ってある写真で「同定してください」とメッセンジャーやらFacebookで送られてくるのだ。「できません」というのも素っ気ないけれども、限られた写真情報から絵合わせして同定するのも無責任といえる。だから私の答えは「できません」しかないのだ。では、どうしてできないのか。

日本に分布するアカマツカサの仲間

▲側線有孔鱗数が多いクロオビマツカサ

日本には少なくとも15種のアカマツカサ属魚類が知られている。

☆アカマツカサ

★アメマツカサ

☆ウロコマツカサ

★キビレマツカサ

★クロオビマツカサ

★コガネマツカサ

☆セグロマツカサ

☆ツマグロマツカサ

☆ツマリマツカサ

☆ナミマツカサ

★ベニマツカサ

☆マルマツカサ

★ミナミマツカサ

☆ユウヤケマツカサ

☆ヨゴレマツカサ

これらは互いによく似ており、同定は難しいのだが、大きく二つのグループに分けることができる。まず体側の鱗が多いものと、体側の鱗が少ないものである。日本産魚類検索 第三版で示された数値は「側線有孔鱗数は32~43」のグループ★と、「27~30」のグループ☆だ。

ただしこの本にも問題がある。というのも鱗数が少ないはずのツマリマツカサが体側の鱗が多いグループに入れられていたりするし、ミナミマツカサのように側線鱗数が30のものがいる場合もあるのだ。

色彩で同定

アカマツカサ属の魚の中には、色彩である程度同定できる種類もいる。

例えばウロコマツカサは、水中でみるとほかのアカマツカサよりも白っぽく見えることが多い。キビレマツカサはその名の通り各鰭が黄色に染まる。ツマグロマツカサは灰褐色の色彩で、尾鰭の後縁が黒くなるのが特徴だ。全身が赤くなるものは同定が難しいが、ベニマツカサは鰓蓋付近の黒帯を欠く。

鰓蓋の模様

本州~九州に生息するナミマツカサは、従来はアカマツカサと混同されていたが、鰓蓋の黒色域の範囲で区別することができるようだ。ただし鰓蓋にかかる黒い帯は個体によっては中断されているようにも見えるし、一部薄くなっているようにも見える。クロオビマツカサだって、水中で見るものと、陸にあげてからでは、同じ魚種のようには見えない。

九州以北のアカマツカサ属

▲ツマリマツカサ

▲ナミマツカサ

アカマツカサの仲間は日本に15種がいるが、大体は奄美大島以南の琉球列島に産する。本州~九州に生息するものは鱗が多いものでは大体がベニマツカサ(和歌山県以南)、クロオビマツカサ(和歌山県以南)、キビレマツカサ(静岡県大瀬崎以南)、鱗が少ないものではツマリマツカサ(高知県柏島。ただし和歌山などにも分布すると思われる)、ウロコマツカサ(和歌山県以南)、ナミマツカサ(伊豆半島~鹿児島県)の計6種に絞られるだろう。ただし、今後ほかの種が九州以北の沿岸で見られる可能性は否定できない。

鱗が多いのは比較的同定は難しくはない。ただし、九州以北で見られる種に限る。とくにキビレマツカサは先ほども述べたように鰭が黄色かったり、ベニマツカサは鰓蓋付近に帯が無かったりする。もっとも南方系種がこれからみられるようになればこの特徴だけで見ていったのでは同定なんて不可能かもしれないだろうが。

九州以北沿岸でみられるアカマツカサ属で一番区別がしにくいのがナミマツカサとツマリマツカサだろう。どちらも高知県柏島で採集された個体をもとに、同じ論文で発表されている。この2種は大変よく似ているが、鰓耙数が43~47と、ナミマツカサの32~36と比べて明らかに多い。鰓耙を見ることができれば同定は早くできるかもしれないが、写真しか残していない状況で「同定してくれ」なんてできるわけがないのだ。私がJKのスカートものぞけるような透視能力を備えているとでも思っているのであれば、また話は別だ。

▲ナミマツカサの胸鰭腋部

▲ツマリマツカサ同様腋部に鱗のないウロコマツカサの胸鰭腋部

この2種の同定するのにもっともよい方法は、胸鰭の腋部を見ること。胸鰭腋部に鱗があればナミマツカサ、なければツマリマツカサだ。これは鰓耙と違って頭部を切開することなくチェックできるのでよい。ただしやはり横から写真を撮っただけではわからないのだ。また頭部の形状も、ナミマツカサのほうがやや直線的に見えるところが、ツマリマツカサと違うかもしれないようだが、これはあくまでも傾向的なものでしかない。さらに言えば、ヨゴレマツカサやアカマツカサが今後北限を更新した場合、これだけでは同定は不可能となり、写真から同定することはますます困難になる。

なお、先ほども述べたように魚類検索ではツマリマツカサは鱗数が多いグループに入れられているが、側線有孔鱗数はナミマツカサと差がなく、この形質からでは同定はできないので注意が必要だ。

なお、今回上げた同定方法は何れも簡易的なものであり、正確にアカマツカサ属を同定するには使うことはできない。やはり、アカマツカサ属の同定を写真だけでできると豪語する人物がいるのであれば、その人物のことは信用してはいけないのである。だから私は「同定できない」と言い続けるしかないのだ。

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