キンギョの放流とそれに関連する問題について

キンギョの放流とそれに関連する問題について

1.キンギョを放流するとどのような影響があるのか

2016年7月後半の淡水魚の話題は、大阪府・泉佐野市のキンギョ放流イベントに全部持って行かれた。これは30年だか40年か続いているイベントで、キンギョの放流イベントはその「目玉」だったらしい。大きな河川を区切った場所にキンギョを放し、そこでキンギョを掬うというイベント。終わったらすべての個体を引き上げるというが、果たしてそんなことできるのか。岩や水草の合間に潜り込んで、1匹でも残っていたら、外来魚の放流である。

そのイベントがTwitterでの有志の指摘により中止されたというニュース。これはとても良い話だ。しかしその一方でキンギョを放流しなかったことでかなり大きい反響があった。そして、多くの人がキンギョ放流賛成派であることに驚いた。

今回のキンギョ放流については、某ニュースサイトで、細谷さんがかなり良い発言をしている。しかしその一方で、キンギョの愛好家と称する人物が出てきてその発言が「虐待」などとおっしゃった。それが事態をさらに複雑にしたかもしれない。コメント欄に多くの人が「環境保護団体は・・・」とか「キンギョすくいの方が虐待じゃね」とかいう、放流問題とは見当違いの発言があった。しかし、キンギョの放流は大きな問題があるのだ。

まず問題なのは、キンギョが日本の在来種であると思い込んでいる人が多くいるという点である。

キンギョはどうせフナだろ、と言う人もいるが、キンギョはもともと日本に生息していない種のフナであるということが知られている。「日本で創られた種のキンギョがある・・・」という指摘もあるが、それは日本で作出されたキンギョの「品種」である。キンギョを放流するのを非難する前に、ご自身でキンギョについて調べてみてはいかがだろうか。さらにキンギョには寄生虫や雑菌などの宿主になったりすることもある。水槽という小さな空間であるが、キンギョを川魚の水槽に入れたら川魚が死亡してしまったということもある。河川に外来の魚を放せば、他の魚にも病気や寄生虫などがうつることがあるのだ。

一方、キンギョそのものがほかの生物を捕食してしまうこともないとはいえない。キンギョだって成長したら50~60cmになるのだ。そうなれば水草や水生昆虫、魚の卵など食い尽くすし、同じような生態系の地位にある生物を脅かす恐れがある。

キンギョを放流したいのであれば、他の水系と全くつながらない、水も直接河川からとったりせず、捨てる水も河川に直接流さないようにするような、大きな家の庭にあるコンクリート製のコイの池みたいな環境に「放流」するのであれば、文句を言う人はほとんどいない。しかし河川のように他にもさまざまな生物が生息するような場所であれば放流を慎むべきであろう。

2.キンギョではなくコイを放流するのはいいのか

キンギョと同様に放流が行われているものとしてはコイがよく知られている。コイは非常に複雑な問題を抱えている種である。

コイは従来日本には移入による分布であるとされていたが、実際は日本にも在来のコイ属魚類が分布していたことが明らかになっている。ただし、日本には野生のコイと外来のコイの両方が見られる。両者の識別は分子分類の観点では違いがあるようだが、外見で見分けることについては、体高など傾向はあるものの、簡単ではないようだ。

コイは河川に沈殿した泥などを取り除いてくれるので河川に入れられているケースも多いが、食性は雑食性でなんでも食う。貝類、甲殻類、藻類など水中にすむ様々な生物をがんがん捕食するのだ。すでにIUCN「世界の侵略的な外来種ワースト100」にリストされていて、とくに北米ではすでに生態系に悪影響を与えるという。

他に問題になっているのは目に見えないものである。コイは寄生虫をもっているおそれがある。養殖していたのを別の河川に放つと、寄生虫が広がる恐れがある。しかしさらに問題なのはKHVと言われる恐ろしいヘルペスウイルスで、それによっておこるKHV病に感染すると大量死が引き起こされる。

国立研究開発法人 水産研究・教育機構 増養殖研究所のKHV病のウェブサイトによれば、この恐ろしいウイルスが広まった理由としては病気になったコイを池や河川に投棄することがあげられているが、見た目に健康であってもウイルスを持っている可能性がある。勿論、他の病気をもっているおそれがある。河川への放流を慎むべきだ。

3.食用魚・釣り魚の放流はどうなのか

キンギョやコイだけでなく、食用魚である魚、釣りの対象となる魚の放流も行われている。ヤマメ、アマゴなどのサケ科魚類が有名で、他に淡水魚ではアユやクロダイなども放流が行われている。

しかしながらこれにも問題があることが指摘されている。アマゴはサツキマス、ヤマメはサクラマスの陸封型である(サクラマスとサツキマスは種としては同じ種で亜種の関係にある)。その生息地は明確に分けられている。東日本、日本海側、九州(大分県以外)にはヤマメが生息し、静岡以西の本州太平洋岸から四国、大分県にはアマゴが分布する。

しかし最近アマゴは生息していない地域でも釣れている。一説によれば、アマゴは体に赤い斑点がありヤマメよりも美しいのだから、ヤマメの生息する地域の河川の組合がアマゴを入れるのだという。そうなれば、国内外来魚となってしまう。

サケ科魚類は人工ふ化が行われることがよく知られているが、これについても問題になりうるケースがある。少なくとも河川に遡上してきたものを孵化させた場合、同じ河川に戻すようにし、ほかの河川から持ってくることは避けるべきだろう。

アユは従来琵琶湖のアユが日本中に放流されていた。しかし最近になって遺伝的に6つの地域的なグループに分けられることが判明している(総合地球環境学研究所)。

一般的に知られているように、河川に生息するアユは稚魚のうちにいったん海に降りるが、それでも海流などの作用により遺伝的な差異を保っている。これを今後も保つために、他の地域から持ってきて安易に放流する行為は問題とされるべきだろう。このほかに放流を行うと病気が広まるのではないか、という問題があるというのは、コイと同様である。

このほかに琵琶湖に生息していた魚が放流によりアユに混ざって分布を広げたなどという問題もある。オイカワやカワムツ属の魚なども東に分布を広げているし、モツゴなどはどこの池や河川でも見られるようになってしまった。

一方で国の天然記念物でもあるイタセンパラなどの保全のために、そのような希少な淡水魚を放流することがある。それについては日本魚類学会が定めているガイドラインを参考にするのがよい。しかし魚類学会のガイドラインでも、安易に放流によって数を増やすことを推奨していない。

4.オオクチバスや観賞魚の放流は

日本にいる外来魚としてはオオクチバスが最もよく知られている。このほかブルーギル、カダヤシ、タイリクバラタナゴ、カムルチー、ソウギョ、ニジマスなどが有名な外来魚である。

何れも日本在来でない魚である。それがなぜ日本に入って来たのか。自分で泳いできたのであれば、それは外来魚ではない。河川が氾濫して生息地であった中国沿岸から有明海にやって来たテナガミズテングや、流木か流れ藻についてアメリカ西海岸からやって来たと思われるファインスケールトリガーフィッシュなども外来魚とはみなされない。

日本にやって来た経緯は釣り人が楽しむために連れてきたもの、皇室に贈られたものが放たれて増えたもの、養殖して食用とするために連れてこられたものや、それに混ざってこっそりとやって来たもの。ボウフラ退治のために連れてこられたものなど色々であった。

しかし近年になって、アクアリストが飼育しきれなくなって逃がしたなどという迷惑なケースもある。有名なのがアリゲーターガーで、小さな池や城の堀などでも生息が確認されている。幼魚が輸入されているが、成魚はメートル級になり、小さな水槽では飼育できない。水族館か、よほど巨大な水槽を有するマニアの家庭でなければ飼育は不可能なはずなのだ。

キンギョの放流反対を非難する立場の人(要するに放流賛成派)に、オオクチバスを放流することに賛成か反対か聞いてみたら、No,と答えた。理由は明かしてくれない人もあったが、オオクチバスは「魚を食べて生態系に打撃を与える」とかいう意見であった。しかし、キンギョにも同じような危険があることを指摘したら「根拠を示せ」などという返事が返ってきた。そして、「キンギョを放流したら生態系が崩れるとか言ってるやつ根拠示せ」だの言っている人も多数いた。

多くの人が、「オオクチバスやアリゲーターガーは放流してはいけない、キンギョは良い」と考えていることは驚きだ。あるいは、「アリゲーターガーは人を襲う」などマスコミが作ったデマに踊らされているのかもしれない。そうであればマスコミは関東大震災のころから全く成長していないといえる。まあ、マスコミに問題があるのは明らかで、マスコミにも問題がある話をすればそれこそA4版で1000ページとか2000ページとかになってしまう恐れがあるので今回は触れないが。

生態系を崩すのは単純に外来魚が在来魚を食うからだけではない。カダヤシとメダカ類(ミナミメダカとキタノメダカ。以下「メダカ」と統一)の場合は、カダヤシがメダカと似た地位にあり同様に水生の小動物を食べてしまうという点もある。そしてメダカは卵を産むのに対しカダヤシは仔魚を産みどんどん増えてメダカが追いやられる。カダヤシと同じ仲間のグッピーを飼育している方ならわかるかもしれないが、この仲間はすぐにたくさん増えてしまうのだ。実際にこのグッピーと同属の種類が北海道白老町や鹿児島県など温泉がある暖かい場所や奄美諸島で野生化し、増殖してしまっている。

交雑も深刻な問題だ。ニッポンバラタナゴはタイリクバラタナゴと亜種の関係にあるようだが、現状、タイリクバラタナゴとの交雑が進み、ニッポンバラタナゴは絶滅の危機にある。国内外来魚の場合、その問題はもっと深刻とされている。目で見えず違いが判らないのだ。しかし一般のネット民にその話をすると「だからなに?」と言って終わってしまう。生物多様性とか、あるいは遺伝的多様性とか、そんなことは何も知らないのだろう。知らない人を馬鹿にすることはできない。なぜならば学校でそんなこと習うだろうか。あるいは、会社で上司の方に教えてもらうだろうか。それにいま大人になった人は、学校で勉強しなおすことができない。何十年も前だと、放流はごくごく当たり前に秩序もなくがんがん行われていた。しかしその何十年の間に失われたものは、もう元には戻せない。

5.法整備はどうするべきなのか

一番問題なのは上では触れなかったが、「キンギョを川に放流していたから自分も・・・」ということで簡単に飼育していた生物を川に捨てる人が出てくる恐れがあるということである。実際に今回キンギョの放流に寛容な意見がSNSや、ニュースサイト、2ちゃんねるなどの匿名掲示板やそのまとめサイトにつけられたコメントに見受けられる。

「ネコを捨てた」「イヌを捨てた」と書けばみなが怒るのにキンギョを川に捨てる(放流する)行為については怒らないのか。動物愛護に関連する法律の範囲である「哺乳類・鳥類・爬虫類」ではないからか。

結局、放流を禁止する法律がない。一部の県の条例にあるくらいである。だからこそ放流の問題がいまだになくならない。

しかし、まだ希望というものはある。

すでにTwitterではある方が「観賞魚放流禁止法」なるものの案を唱え始めているところだ。これがほんとうに安易な放流をやめられるのか、あるいはその法自体ができるのかはわからない。でも、何事も、誰かが声をあげなければならないし、それがなければ絶対に法案などできないのである。

河川に放流することがなくなり、魚好きにも地域にも生物にも住みよい環境をつくることが大切なのである。

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