希少な魚の養殖とそれにかかわる問題

希少な魚の養殖とそれにかかわる問題

最近、ワシントン条約や各国の法律で保護されている魚の養殖個体が観賞魚として流通されることが多くなった。アロワナの仲間のアジアンボニータン(アジアアロワナ、アロワナ目アロワナ科)はワシントン条約の付属書Ⅰの指定種であり、国際的な野生個体の取引が禁止されているが、養殖の方法が確立しており、現在でもたくさんのファームで養殖された多数の貴重な骨舌類を見ることが出来る。さらにやはりワシントン条約により国際的な取引が規制されている巨大なナマズのメコンオオナマズや、原始的なハイギョの仲間のオーストラリアハイギョも輸入されるようになった。これらの種はかなり高価であるため一般のアクアリストには手が出しにくいが、それでも飼育することが出来ない、よりははるかに良い状態であると言えるだろう。さらにこれらはかなり大型になる生き物なので、中途半端な設備では大きくできないし、巨大な水槽をもつ人でしか飼えないし、買ってもいけないので丁度いいかもしれない。

ワシントン条約で国際的な取引が規制されている海水魚も何種かいる。日本に生息しているタツノオトシゴの類もそうだ。漢方薬の原料で乱獲され数が減少しているので国際的な取引には書類などが必要なのだ。タツノオトシゴの仲間は日本各地の沿岸にすみ、アマモ場や藻場に生息しており自家採集も可能。飼育は他の海水魚と比べ簡単とは言えないが、業者だけでなく、ごく一般的なアクアリストのなかにもタツノオトシゴの繁殖に成功している人がいるほど。

日本の淡水魚はどうか。日本の淡水魚のなかで種の保存法によりミヤコタナゴ、イタセンパラ、カゼトゲタナゴ(山陽産。魚類検索第三版)、アユモドキの4種が保護対象となっている。これらは採取や譲渡、飼育を原則禁止するもので、生息地の改変はとくに禁止されているわけではない(実際にはそうでもないようだが、あまり省庁もそれについては煩く言っていない)。そして生息地の改変が、絶滅が危惧されている最大の原因である。次いでブルーギル・ブラックバス類等による食害、乱獲、他の外来種との競合、農薬、だろうか。

現在はミヤコタナゴやアユモドキなど増・養殖の事業が進められている。その養殖された個体をアクアリストに販売してもよさそうなものではあるが、なぜかそれをしない。現状どの省庁も資金難であるが、養殖した個体をアクアリストに販売すれば、それも解決でき、さらに密漁も防ぐことが出来て一石二鳥であるのだろうが。

それをしない理由はいくつか考えられる。たとえば、正規に採集されたり養殖されたりしているものか、わかりにくいということがあるが、繁殖がすすめばわざわざ採集する必要がなくなるだろう。何故なら法を犯すというのは危険なことであり、場合によっては堀の中に入ってしまうということがあるからだ。一方、偏った見方をすれば、「希少な保護種を飼育できる特権を手放したくない」研究所や水族館が反対しているのかもしれない。しかしそれは理解できる。人間は、特権を享受できる立場にいればうれしいし、その特権をある日突然享受できず、一般的に開放されたらがっかりする、そんな生き物だからだ。

しかしやはり最大の理由は、「希少な淡水魚を放して、新たな外来種問題を引き起こす恐れがある」というのが事実ではないだろうか。

希少淡水魚種を自分の近所のまだまだ自然がのこる綺麗な河川で保護してやろう、という考えがあるかもしれない。種の保存法で保護されている魚4種のうち3種はタナゴの仲間だ。タナゴの仲間はコイ科のいちグループなのだが、他のコイ科の魚のように、水草や水底に卵を産み付けるのではなく、河川の底に生息する二枚貝のなかに卵を産む(ヒガイの仲間も同様)。もしミヤコタナゴなどの種が河川に放されてしまったら、その分在来のタナゴ類が産卵できる二枚貝が減ってしまう。最近は河川の改修や、地域によっては販売用として二枚貝も乱獲されるようになってしまい、二枚貝の数も減ってしまった。個人的な趣味により二枚貝を採取するのは問題とされにくいが、ある県では販売用に業者が河川のどこにでもいたマツカサガイなど採取しつくしてしまった…という信じがたい話も聞く。購入は乱獲をする業者の乱獲に加担してしまう恐れがあり、できるだけ避けるべきかもしれない。

さらに問題なのはタナゴ類が卵を産む二枚貝は飼育がやや難しい。昔の飼育本など読んでいると「タナゴ類の産卵が終わったら、河川に戻してやろう」という一文があるが、それは問題視されるべきだ。もしその貝の中にまだタナゴの仔魚がいたならば、新たな外来生物の蔓延を招くことになってしまう。貝に与えている餌もいったいどの水域から採取してきた藻類なのか。貝に付着している小動物はいったいどこのものなのか…それを考えると、たとえ採集してきた二枚貝であっても、採集してきた場所であっても、再度河川に戻すことを慎むべきであろう。勿論、タナゴだけでない。

今日(2017/1/24)にも、大相撲初場所 大関 稀勢の里優勝→横綱昇進が確定ということで茨城県民はみな歓喜している様子が報道されているが、その大関の出身地である竜ヶ崎市の隣町でこのようなニュースがあった。

<養殖業者>衰弱チョウザメ 50匹を川に放流 死骸浮く (毎日新聞)

チョウザメの仲間の種については触れられていないが、恐らくベステルと呼ばれる属間交雑の品種だろう。一般的に交雑個体は不妊と思われがちだが、チョウザメの場合は不思議なことに属間交雑でも妊性があるというのだ(チョウザメの場合筋肉も食用とするが基本的にはイクラー(キャビア)をとる為に養殖されるので、妊性がなければおかしい)。弱った魚を河川に放せば外来種の放流、死骸を川に捨てたのであれば死体遺棄、(正確には魚類の場合だと法律上不法投棄になってしまう)となると思われるが、実際にはそれですむ問題ではない。人類は冷水病やKHV、あるいはカエルツボカビの件で懲りたのではなかったか。最近では埼玉でのホンモロコ(琵琶湖原産)の養殖など、淡水魚の小規模養殖が「はやり」になりつつあるが、逃がしたり遺棄したり、あるいは逃げたりすれば外来生物の放流だし、死骸を遺棄するならばバイオハザードであることを養殖業者は頭に入れておくべきだ。今回のチョウザメは弱ったから野に放ったということだが、冒頭にも述べたように、中途半端な設備では養殖どころか、飼育さえ満足にできないし、魚も可愛そうだ。養殖業者は設備の充実と、養殖魚が逃げた場合は外来種を逃がすことになるということをきちんと理解しておかなければいけない。

世間ではガーやナイルパーチの放流どころか飼育を禁止することについて当然という意見も多々見受けられるが、私は逃がさないように一生飼育するべきことが大事だと考えている。そして法律で飼育禁止の魚を増やすのではなく、放流を禁止する方向に何故向かわないのか。そうなればホタルの幼虫に食わせるカワニナを放せなくなるからか。あるいは、サケマス業者との癒着があるのだろうか。このままでは単なる「いたちごっこ」。根本的な解決にはならない。「海外の魚のすべてを輸入禁止にすべき」という意見も聞くが、国内の魚も飼育に飽きたら放流し、遺伝的多様性が損なわれる可能性も考えられる。結局放流を禁止するようにしなければ、何も解決しない。

また観賞魚の放流について問題視する意見が多くとも、コイなどの放流についてはあまり問題がないという意見が多い。この間もコイに酒を飲ませ川に放流するという神事があったが、閉鎖的な池ならともかく、河川にはなすとしても問題ないという意見が多かったのに驚いたし、昨年の「おさかなポスト」が河川に外来魚を放流していたという信じがたい出来事もあった。

いずれにせよ放流は原則禁止するべきだろう。サケマスの保護事業等、どうしても必要な場合のみ、その水系の個体群に限り放流を認めるというのはどうだろうか。

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